スポーツでもビジネスでも「強くありたい」という思いは誰でも持っていると思います。
これは、特に結果を出したいと頑張っている人ほどその思いが強い傾向があります。
では、「強さ」を求めて、果たして勝ち続けることが出来るのでしょうか。
私は、「強さ」だけでは、爆発的な結果は出し続けられないと考えます。
この話をすると、多くのプロアスリートや経営者は反発されます。
「結果を求めて強くなるために努力をする。
これは楽しいし、何がいけないのですか?」
皆さん、恐らく結果は強さがあるから出ると思われているのです。
 これは、間違いではありません。
 勝つためには強さは大事なのです。
 しかし、同時にこれは半分しか人の能力を使っていないともいえます。
では、何が必要なのか?
それは「弱さ」です。自分の弱さを活かすことです。
あるプロ野球のピッチャーCさんは、150キロのストレートが自慢でした。
 しかし、プロに入って5年目。
 肝心なところで打ちこまれて、勝ちを逃していました。
Cさんは持ち前の負けん気で、
高校時代からストレートでぐいぐい押していくのが持ち味で、
 プロになってからも真っ向勝負のスタイルを貫いていました。
本人もどこかで限界を感じはじめていました。
 実はストレートのコントロールが苦手だったのです。
 しかし、どうすれば良いのか分からなかったのです。
私は彼のプレーを見ていて、非常にムキになっている感じを受けました。
 焦れば焦るほどリズムが単調になっているようでした。
 そこで、そのことを伝えたのですが、当初理解はしても、変えようとはしませんでした。
逆にさらにストレートに磨きをかけようとしていたのですが、
 ある時ひじに違和感を感じたのです。
 結果、大事には至りませんでしたが、本人はかなりショックを受けていました。
「もう、私はプロではやっていけないかもしれません。」
そこで、私は「弱さ」という考えを伝えました。
「一番、自分で弱いと思うピッチングはどんなピッチング?」
「それは、カーブで逃げるピッチングです。」
Cさんは、カーブを逃げるために使っていると思っていたのです。
 実はいいカーブを持っていたのですが、 積極的に使おうとは思っていなかったのです。
しかし子供の頃は、遊びでいろんな球種を試すのが大好きで、
 夢中になってカーブも投げていたそうです。
 しかし、いつしか勝つことが野球の目的になって、
 ストレートしか信じられなくなっていきました。
そこで私からは大好きだった「カーブ」を極めることを提案しました。
 しかも、思い切り弱く遅い球を投げるように。
その結果、さまざまな紆余曲折がありましたが、
結果としてCさんは復活しました。
 しかもそれは、以前のような速球投手ではありません。
コースに自由自在に投げられるスローカーブが持ち味です。
 そしてカーブが磨かれてくると、ストレートにも変化が出てきました。
 球にキレが出てきて、コントロールも定まってきたのです。
相手のバッターも以前のCさんより、かなり嫌な感じを受けているそうです。
それは、150キロのストレートも何度も投げられると、目が慣れてきます。
 またCさんは、ここ一番で単調になる癖があったので合わせやすかったそうです。
それが、スローカーブが登場したせいで、迷いが出るようになったのです。
 打ちやすいカーブが来ても、それが絶妙なコースにくるので逆にゴロを打たされてしまう。 
また、ストレートも以前より早く感じて、タイミングが取りづらいのだそうです。
これがまさに「メリハリ」です。
皆さんにぜひやってみていただきたい「メリハリ」のワークがあります。
 割り箸を持ってください。
 まずは思い切り強く何度も振ってください。
 その時、強さは感じられましたか?
それでは、今度はゆっくり、柔らかく、弱く振ってみてください。
 そして、それができるようになったら、
 何度か弱く振った後、一回ビュっと強く、早く振ってみてください。
今度はいかがでしたか?
恐らく、2回目の方が、強さを感じられたはずです。
 見ている方も、速さや強さを感じられたはずです。
このように、人はずっと強さばかりをやっていると感覚がマヒしてくるのです。
 一方で、弱さを入れると逆に強さが生きてくるのです。
これは、ゴルフでもテニスでも同じことが言えます。
 一般的にどのプロも早く強いプレーを目指します。
 強く、早く振ろうと意識すればするほど、感覚がマヒしてきます。
そうではなく、弱く、遅いプレーに挑戦してもらうのです。
 そうすると、それが楽でワクワクすることに気づいてくれます。
 実は弱く、遅いに自分の大好きなプレーがあったりもするのです。
 そして大好きなことは容易に極めていくことが出来ます。
苦手なことを極めるのは大変ですが、
 好きなことは、どんなに失敗しても案外くじけないのです。
 そして、最初はただ弱く、遅かったプレーが、練習する中で、輝きを増してくるのです。
これは一つのショットだけではなくプレースタイル全般にも言えます。
 自分の強さを出そうと思えば、自分の弱さを追求することが大事なのです。
Cさんも、弱さを意識し始めたことで、他にもいろいろな変化が出てきました。
それは、相手が見えるようになってきたことです。
 以前は速い球を投げて、相手をねじ伏せようとすることに一生懸命で、
 相手のことが見えていませんでした。
 キャッチャーミットに投げ込むことに精一杯で、それが集中だと思っていたのです。
そうではなく、相手との駆け引きや翻弄することを楽しめるようになりました。
 特に野球は自分だけのスポーツではありません。
 相手がいて、そこで成り立っているスポーツなのです。
 ある意味でCさんは孤独に闘っていたのです。
「強さ」を求めたい方は、
まずは「弱さ」と感じられる部分を活かすように練習してみると、
さらに自分の強さが際立ってきます。
 ぜひ試してみてくださいね。






