ゴルフのレッスン書を読むと、ゴルフの基本は構え、つまりアドレスとあります。アドレスがスウィングの8割を決める、という指導者もおられます。

なぜ構えが大事なのでしょうか。このコラムを書いていて、プールでの出来事を思い出しました。リラックスして泳げる日は気持ちいいです。しかし、すごく疲れる日もあります。ゆっくり力を抜いて泳ごうとしても、水の抵抗を感じて、なかなか進まず、なぜか力が入ってしまうのです。その違いの理由が分からなかったのですが、ある水泳の指導者から、浮かぶことの大事さを教えていただきました。実は、人は力さえ抜けば浮かびます。それまでは「浮かぶ」前に「泳ごう」としていたのです。これだと、余分な力みが入ってしまいます。まず体はプカーと浮かぶというのが、水泳における構えだったのです。これを私は「プカーの構え」と名付けました。

ちなみに剣道のメンタルトレーニングをしていても、いかに力みを抜くかが課題になります。相手に勝つことを考えると、速く打とう、強く打とうとします。これでは力が入って、気持ちよく振り抜けません。一瞬動きが鈍り、隙が生まれます。達人と呼ばれている剣士に伺うと、もっとも大事なことは「打つ」ことよりも「構え」。いかに、自然に構えられるか。どんなときも構えをしっかりとれるか。いい構えができるほど、打つ気配が消えるそうです。

坐禅の基本は、姿勢ですが、例えば目にも構えがあります。人はいとも簡単に見ている物に目を奪われます。試しに、2メートルほど先を見てください。何か一点に集中してみてください。30秒ほどやってみましょう。いかがでしたか?結構疲れませんか。実は人は何かを見よう、集中しようとすると疲れるのです。肩に力が入ったり、呼吸も浅くなっていたと思います。先ほどの剣道の例でも、打たれると思うと自分を守るために目に力が入ります。また、打とうと思うと、一点に集中します。こうなると、緊張で身体がこわばります。

もう一つ実験してみましょう。まずは力を抜いてまっすぐ立ってみてください。その時、足の裏で重心を感じます。そして、次に何か目標物を決めて集中して見てみましょう。恐らく、少し重心が前に行くのが分かると思います。人は見ようとするほど、わずかですが前屈みになり、重心が移動するのです。こうなると、結果として力みが発生し、竹刀の振りが大きくなるのです。剣道の試合は4分間ですが、目が力んでいると集中力は持ちません。集中力が落ちたところを、打ち込まれるのです。

では、見ることにおける「プカーの構え」は何か。実は何かを見る前に、「目」があるのです。目は自然に見てくれるのです。まずは自分の目を触ってみて、そこにあることを感じてみましょう。そして目の存在を感じながら、再び2メートルほど先を見てみましょう。このとき大事なことは、見ようとするのではなく、目に委ねる感じです。このエクササイズをすると、多くの選手達が、目の力が抜けたという感想を持つようです。これが目におけるプカーの構えです。

ゴルフにおいても、ボールを見過ぎていないでしょうか。まずは、「体が自然に構える」という意識をしっかり持ちましょう。「構え」の探求には終わりはありません。悩んだら、何度でも構えという原点に返りましょう。これを続けることで、どこかで「プカーの構え」が分かってきます。