最初に一つ、実験をしてみましょう。座った状態で、静かに呼吸を意識してみてください。まずは、お腹の奥まで、空気を入れることを意識しながら1分ほど深く呼吸してみましょう。いかがでしたか?息を深く入れようとすると苦しくなりませんでしたか。私も坐禅に通い始めた当初は、深く息をしようとして、逆に息苦しくなっていました。

お寺の坐禅会に参加すると、丹田といわれる身体の奥深くにまで息を入れることが肝要だと教わりました。坐禅をメンタルトレーニングに取り入れているアスリートたちも、息を深く体に入れようと無理な呼吸法をしている場合が多いのです。

そんなとき、禅の師匠から、「息は深く入れるものではない。無理に呼吸しようとすると力みが生まれる。まずは自然に深い息になる姿勢を作ることが大事」と言われました。息が深く入るのは大事ですが、無理に深く入れようとすると逆効果になるのです。最近になって、ようやくこの違いが分かってきました。

自然に息が深くなる一つの方法が、息が入ってくるときに、体の動きを感じることでした。空気が体の中に入ってくると、実は体は下から動くのです。床からあがってきて、骨盤が少し前に動き、それに連動して腰や胸の骨が、上に向かって立ち上がっていきます。そのとき、背中は左右に広がっていきます。実は、体の微細な動きを観察していると、呼吸とは鼻から胸へと入っていくと同時に、身体は下から上へと立ち上がっているのです。上から下、下から上という両方の動きに気づけるようになってくると、自然に深くゆっくりと呼吸できるようになりました。

ある若手のプロゴルファーは、間が上手くとれないことに悩んでいました。スイングを修正する中で、リズムが崩れてしまったのです。見ているとプレー中にも、トップからダウンにかけての動きを何度も確認していました。しかし、トップを意識すればするほど、力んでしまうのです。

そこで、メンタルトレーニングで提案したのは、足の裏への意識。ショットの前のルーティンでは、足の裏の感覚をフィニッシュまで意識することをやってもらいました。トップを意識するあまり、体の動きが途中で止まっていたのです。これは、上半身だけのスイングといえます。気になるところだけを練習していると、意識がある特定の場所に偏り、動きはぎこちなくなっていきます。

悩んだら真逆を練習することです。先ほどあげたプロゴルファーのように上半身が気になっている場合は、下半身を意識する。パットやアプローチで、手の動きに違和感があるときは、足の裏をしっかり感じながらプレーしてみるのもいいですね。身体の左サイドが気になっているときは右サイド、右サイドが気になっているときは左サイドを意識してみると真逆は探しやすいです。

逆を意識することでバランスがとれます。そして、その逆は一定ではありません。時間が経つと偏っていくので、そのまた逆にいく。自然な流れを邪魔せずに、自分の心と体を合わせていくことで、力みのない、シンプルな動きが生まれます。