選手とのメンタルトレーニングをするときに、いつも心がけていること。それは何を加えるかではなく、何を削るか。実はいいプレーをするために大事なことは、何かを加えることではありません。知識も技術も加えていくと、動きがぎこちなくなります。もちろん、いろいろなスキルを足していくことも上手くなるためのステップですが、余分なものを削っていくと、あなたらしいスウィングが見えてきます。自分らしく振れば、実は滑らかにスウィング出来るのです。それを邪魔しているものが問題なのです。

例えば、飛ばそうとすると肩やひじなどに余分な力みが発生します。またスウィングを直そうとすると、思考による力みが発生します。この2つの力みが余分な癖を生みだし、スムースなスウィングを邪魔します。ただ力みは、当たり前になりすぎて、気づくのが難しい。この力みの上に、どんなにいいスイングを作ろうとしても、自分らしいスイングからは遠ざかってしまいます。

そこで選手とのメンタルトレーニングでは、「ノー思考」の日をあえて作ってもらいます。その日の目的は、力みを抜いて自分らしいスイングを取り戻すことです。そのために、何も考えずとにかく思い切ってプレーしてもらいます。どれだけ失敗してもOK。どれだけOBを出しても、どれだけミスパットしてもOK。ポイントはとにかく楽にやること。気持ちよく振ること。そして、何より笑いながら楽しくやることです。

このノー思考ラウンドをやっていると、不思議なことに途中でいろいろ気づきが生まれます。ある選手は、ボールが捕まらないことをとても恐れている自分がいることに気づきました。そこで、ボールが右に出てもいいので、とにかく楽に振ることを提案しました。最初は、右にすっぽ抜けたり、左に引っかけたりとショットが暴れていましたが、何発か打っているうちに、すごく楽に振れた瞬間がきました。この選手曰く、右肩がすごく遅れてくる感じだったそうです。クラブが走ってフェースに球が長く乗ったのです。

ノー思考のメンタルトレーニングは、普段の練習とは逆の感覚。余分な思考や力みが抜けていくと、自分本来のスウィングが戻ってきます。

スウィングの修正が決して悪いわけではありません。うまくなるために技術を会得することは、もちろん必須です。しかし、本当に必要な修正かどうか、あなたらしい修正かどうか、時々本能に尋ねてやることが必要なのです。そうしないと、「思考型」のスウィングになってしまい、自分本来が持っている「野生」のスウィングを失ってしまうのです。野生のスウィングとは、自分の持ち味であり、自分特有のリズムであり、間であり、プレーのテンポです。

成長するとは、新たな自分になることでもありますが、本来の自分に戻ることでもあります。これは禅でいう円相の心。一周すると必ず原点に返るのです。自分らしいベストスイングを邪魔しているものはなんですか。まずは、それを削っていくことを意識してみてください。