メンタルトレーニングのコラムを連載中の週刊ゴルフダイジェスト、今週のテーマは「背中坐禅のススメ」です。

ゴルフで下半身の大切さを教えているレッスンは多くあります。打とうとするとつい上半身に力が入ってしまうので、上半身と下半身のバランスが大事なことは理解されているのではないでしょうか。

しかし、バランスが大事なのは、上と下だけではありません。実は、身体の前後も大事なのです。スポーツでは身体の前側だけに偏る傾向があります。それは、ボールを打つために、目で見ようとするからです。またゴルフだけではなく、実は不調に陥ったアスリートの多くは背中側の後半身が死んでいます。メンタルトレーニングでは、身体の前後のバランスをいかにとっていくかに取り組みます。

剣道でも竹刀を振り上げるときについ腕の力に頼ってしまいがちです。それだと肩などに力が入ってしまい剣の動きが鈍ります。いわゆる小手先の動きにならないためには、背中の動きが大事になります。

あるベテランの女子プロゴルファーは、試合中にショットやパットのフィーリングが急になくなることが課題でした。観察していると前半身だけで打っていたのです。後ろ半身の動きが死んでいては、腕の力みが抜けません。前半身だけでは、身体の厚みを感じられていないので、表面のスウィングになってしまいます。その結果、トップもフォローも浅くなってしまい、「間」が上手くとれず、「タメ」も生まれません。

このプロは、過去に坐禅をした経験があったのですが、息が苦しくなるばかりでやめてしまったそうです。そこで、背中坐禅をすることにしました。背中坐禅とは背中の上から下に息が入って、そして背中を通って空気が出ていくことをイメージしながら呼吸する坐禅法の一つです。

このプロは前側だけで呼吸していたので、だんだん首が前に折れてくるクセがあったのです。背中で呼吸することを意識することで、この女子プロの場合は、自然に背中が立ってきました。結果として空気が肺に入りやすくなったそうです。

アスリートでも調子が悪くなってくると、背中の感覚が失われます。背中を感じるのが難しいという方は、椅子との間にクッションか座布団を挟んで、その柔らかい感覚を感じることから初めてみましょう。誰かに背中を手の平でそっと触れてもらいながら呼吸するのもいいと思います。

背中での呼吸がイメージ出来た方は、背骨の存在を感じてみてください。まずは、誰かに背骨を触ってもらって背骨の存在を確認します。背骨が身体を支えてくれることを感じながら坐って、呼吸してみてください。人は焦ってくると支えてくれている存在を忘れてしまいます。他にも足を支えてくれている大地の存在であり、呼吸してくれている肺の存在を意識できてくると、どんな緊張した場面でも、安心感を感じながらプレー出来るようになります。

禅の師匠の老師によると、あまり背中側ばかり意識しすぎるというのは逆効果だそうです。感覚の世界というのは、濃すぎても薄すぎても良くなくて、ちょうどいい加減ということが大事であり、やりすぎないことと念を押されました。ぜひ、前半身と後半身のいい塩梅を探してみてください。

私たちの心にも身体にも、背中だけではなく、忘れている側面がいろいろあります。メンタルトレーニングでは、陰になっている側面に意識という光を当てていくことで、身体の前後のように、いいバランスを作っていくことが可能になります。