メンタルトレーニングのコラムを連載中の週刊ゴルフダイジェスト、今週のテーマは「思考と動作の速度」です。

皆さんは、焦ったときにスイングが早くなったとか、あるいは怖くなったときに我を忘れて打ってしまったという経験はありませんか。人間は緊張状態になると、脳の状態が普段とは異なったモードに入ります。これはいい悪いではなく、人間が持つ生存本能から来ています。

しかし、その緊張モードのままプレーしてしまうと、大きなミスに繋がってしまいます。いかに緊張モードから立て直せるかが、メンタルトレーニングのポイントです。

実は、動作の速度と思考の速度はつながっています。リラックスしているときを思い出してください。ゆっくりと湯船につかっているときや美味しいコーヒーを飲んでいるとき、思考はゆっくりではないでしょうか。一方で焦っているときを思い出して下さい。クライアントとの約束に遅れそうで早足で歩いていると、思考の速度も速くなっていると思います。

茶道のお手前では、一つ一つの動作の速度を意識することを修行します。不思議ですがお茶室に入ると、まったく時間の流れが違うことを感じます。最初はお茶室の中の時間の流れに違和感を感じますが、稽古でゆっくりすることを意識する中で、少しずつ自分の心の流れがその場に馴染んでいきます。時の流れを意識すると自然との調和が生まれるのです。忙しい現代社会では「時」への感覚が鈍くなっているので、速度への感度を取り戻すことが大事なトレーニングになります。

一つ一つの動きを心の中で言葉にしてみるという瞑想法があります。椅子に座った際には、「座っている、座っている」と念じ、その後に地面に触れている足の裏や椅子に触れているお尻などを感じながら、「触れている、触れている」と念じます。そして次に呼吸をしながら、息が入ると下腹部が膨らみ、出て行くと縮むのを感じます。そして、「膨らみ、縮み」と心の中で唱えます。ただ、これだけですが、今この瞬間に心を戻すのに役に立ちます。

選手とのメンタルトレーニングではルーティンをしながら、この瞑想法を練習します。「素振りをしている」「ボールに向かって歩いている」「クラブを構えている」一つ一つの動作を言葉にするのです。これをやると、頭の中での思考が次から次へと出てきて止まらなかった人も、言葉が減って、心の流れが穏やかになってきたと言っていました。

また目の動きもプレーに大きく関係しています。目は放っておくと、いろいろなものに反応して、キョロキョロします。これは目が泳いでいるという状態ですが、さまざまな情報が一気に入りすぎて、集中力を妨げるのです。

目の動きを静かにするためには、見ているものを言葉にするメンタルトレーニングが有効です。たとえばグリーン上なら「今ボールを見ている」「カップを見ている」「ラインを見ている」と目の動作を心の中で唱える。それだけで、目が泳ぐことが減ってきます。

このとき、小さいポイントをみれば、集中力が高まり、大きなエリアをぼーっとみると、リラックスしてきます。その時の状況によって、目の使い方を変えていけばいいので、いろいろ実験してみてください。