スポーツのメンタルトレーニングと禅 上手くなろうとしないのがメンタルトレーニング

調子がよいと感じているときに大事なことは、もっと上手くなろうとする気持ちの半分を捨てることです。

上手くなりたいのに、上手くなろうとしないのがメンタルトレーニング???
どういうことなのだろうと混乱された方もおられると思います。

もっと上手くなろうとする心には、夢や希望があります。目標があります。計画があり、修正したいことなどやるべきことがいっぱいです。

調子がよいときには、多くのことにトライし、新たなことをどんどん吸収したいと思います。実際には、努力をすれば可能でしょう。それを否定はしませんし、そういう時期も必要です。

では、調子が悪くなってくるとどうでしょう。何をやっても上手く噛み合わない。努力すればするほど下手になるように感じる。そういうとき、上手くなろうとする心は、「したい」から「しなければならない」に変わっていきます。

「したい」は軽やかな「自我」です。周りとの調和がある「自我」とも言えます。

「しなければならない」は重たい「自我」です。周りから切り離された孤独な「自我」とも言えます。

上手くなりたいのに上手くいかないという状態は、自我を重くするのです。一度立てた目標や計画を変えたくない。自分はこんなものではない。そういう焦りからさらに練習量を増やし、多くの球を打ち込んでいきます。

メンタルトレーニングを受けにくるアスリート達は、「もうこれ以上何を頑張ればよいのか」という状態になっています。ドン底でも、なおまだ頑張ろうとしているのです。

上手くならねばという思考から抜け出せていないのです。これは、心と身体がパンパンになっている状態といえます。

そこで必要になのは「初心」です。

今、師匠である藤田一照老師の勉強会に参加しています。今年のテーマは「初心の技術」です。

初心というのは「初心忘るべからず」というように、一般化して理解されている傾向があります。もちろん、心構えとして持っておくのもいいとは思いますが、禅においては、さらに「初心というあり方」について具体的に探究していきます。

そして、初心のあり方や状態は一つではありません。

「初心」の一例を挙げると・・・
・分からない中で答えを求めずただ問い続けている。
・好奇心が湧いている
・おずおずとこれでいいのだろうかという初々しさがある
・リセットされ続けている状態
・「おのずから」が起こっている状態
・ライフが新鮮である状態

講義の中で藤田老師は「初心の状態は、心にたくさんの隙間があります。この隙間は可能性です。」と話されていました。

初心とは隙間???最初は意味がよく分かりませんでした。よく吟味してみると、確かに心がいっぱいになっていると、仕事も日々の生活も色褪せてきます。これは初心から遠ざかっている状態。

隙間の大事さはスポーツにおいても同じです。これまで積み重ねてきた経験や知識、いい結果を出したいという思い、理想のプレーと失敗したくないという不安や恐れなど、頭はさまざまなことでいっぱいになっています。

ある女子プロゴルファーは「いつもいっぱいでパンクしそうなところでした。嫌な事にスペース取られないためにいつもパンパンにしてる感じでした。」と語っていました。

怖いからスペースを空けないようにする。これは、多くのアスリートに言えます。心にスペースがないと、身体もスムースには動いてくれません。

いかに、心と身体の隙間(スペース)を空けていくか。

メンタルトレーニングからのアプローチとして、最初に述べたように「上手くなりたい」という思考を半分捨てることです。すべて捨てるのは難しいと思います。スペースを空けるには手に持っているものをまずは手放す必要があります。

手放す一例
・目標や計画を捨てる(未来を考えることはスペースを埋めます)
・コントロールを捨てる(思い通りにしたいという思考はスペースを埋めます)
・ジャッジを捨てる(正しい間違いという思考はスペースを埋めます)
・分析を捨てる(原因を追求する思考はスペースを埋めます)
・結果への執着を捨てる(結果へのこだわりはスペースを埋めます)

心に隙間(スペース)を空けるために、身体からのアプローチが有効なのですが、ちなみに私の失敗談があります。

坐禅に取り組んでいるとき、一生懸命いい坐禅をしようとしていました。いい坐り方、深い呼吸、長い呼吸。せっかく坐っていても、これは頭も身体もいっぱいに詰まっている状態です。やればやるほど苦しくなります。

坐禅でもいかに上手く坐ろうとしないか。

ただ心と身体を外側に開き、空気の出入りを感じる。いい呼吸をしようとするのではなく、身体のはたらきに任せ、それをただ感じるだけ。

心を外側に開き、空気の存在と呼吸する身体を静かに感じているだけで、少しずつ「隙間」が生まれていきます。

上手くなりたいというのは「みずから頑張る」心です。みずから頑張る心だけで練習を重ねると、どこかでいっぱいいっぱいになるのです。

心のスペースをいつも空けておくことで、「おのずから」という状態が起こってくるのです。この「みずから」と「おのずから」のバランスが、結果的にいいフィーリングを生むのです。

調子がよいときには、つい心と身体をいっぱいにしがちです。いかにスペースを空けるかが、身心のトレーニングといえます。

週刊ゴルフダイジェストに連載中のメンタルトレーニングのコラム「禅の境地へ」第168回のテーマは「自分が消える方向」です。

前回の引き続き、「恥」という意識についてお伝えしています。恥というのは苦しみです。しかし、この苦しみを感じていることが「無心のスウィング」への入り口なのです。

ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

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