「身体を社長、思考をマネージャーに」これは、禅の師匠から教わった言葉です。この発想を聞いて、思考が社長ではないかと思った方も多いと思います。なぜなら、私たちは学校で思考の大事さを学んできたからです。ビジネスでもスポーツでも思考を重視しがちです。過去のデータを分析し、今できる最善の策を検討する。リスクを減らし、成果を最大にするために、戦略や方法論を論理的に考えることが能力の高さとされています。

しかし、ゴルフで必要なのは前例にとらわれない創造性と直感を信じてやり抜く勇気。そして、創造性と直感は思考からではなく、身体から生まれるのです。なぜなら、身体は常に変化しており、いつも初心だからです。身体からの声を聴くというのは、禅やヨガなどに代表される、まさに古からの東洋の英知です。禅メンタルトレーニングでは、いかに身体と心の働きを融合させることが大事になります。

パターを絶対に入れなければと考えるほど、動きがぎこちなくなっていきます。それは入れなければという思考が、ヘッドを動かすために最低限必要な部分だけにフォーカスさせているからです。これでは、身体はスムーズに動きませんし、距離感も方向もずれていきます。動きがぎこちなくなるのは、身体と思考の順番が逆になっている証拠です。

「身体ファースト」のプレーとは、まず身体感覚にフォーカスするということです。身体を感じるとは、背中や腰の微細な動き、下半身が地球に支えられているなどの感覚です。このときよくあるのは、一度外した思考からの声がすぐに戻ってくるということです。もっとヘッドを出したらいいよ。もっとゆっくり振らないと。ヘッドをまっすぐ上げよう。これはすべて思考からの言葉です。この言葉を聞いてしまうと、身体からの声は消えて、また思考ファーストのプレーに戻ってしまうのです。大事なことは、身体を感じ続けることです。すると、いろいろなことに気づき始めます。膝が硬くなっているかもしれません。あるいは、頭が動いているかもしれません。大事なことは直そうとしないこと。ただ、それを感じるだけでいいのです。

このメンタルトレーニングをやっていると、自然に身体全体でストロークするようになるので、思考による余分な働きは静まっていくのです。身体感覚にフォーカスすることで、身体自身が自分にとって最適なスイングやストロークを見いだしてくれるのです。

禅では調心、調息、調身という言葉があります。これは、心に任せるとおのずから心は整う、息に任せるとおのずから息は整う、身体に任せるとおのずから身体を整える働きが人間にはもともと備わっているという教えです。身体の働きを磨くのは、身体自身なのです。思考ファーストでは、身体の創造性を奪ってしまうのです。

一方で、思考には得意な働きがあります。風の向き、ピンの位置などコースのマネジメントは、思考が得意な領域です。身体感覚を結果につなげるには、社長を支えるいいサポート役が必要なのです。どんなにいいショットを打っても、マネジメントがしっかりしていないと、クラブを間違えたり、リスクを取りすぎて、大きなミスにつながる可能性があるからです。

ぜひ、身体ファースト、思考サポートで挑戦してみてください。