ゴルフメンタルトレーニング

これまで、プロゴルファー、プロ野球選手、プロテニスプレーヤーなどをサポートしてきました。選手からは「赤野コーチはもともとメンタルが強いのですか」とよく尋ねられるのですが、もともとメンタルに自信があったわけではありません。こう書くとがっかりされるかもしれませんが、ドライバーでイップスになったりと、若い時はむしろいろいろな壁にぶち当たり悩んできました。

悩みを乗り越えてきた経験があるからこそ、今ではゴルファーの皆さんの悩みを理解でき、トレーニングに生かせています。人生に無駄なことは何もないですね。

世界No.1選手は「禅」と「心理学」の融合から生まれた

禅×メンタルトレーニングのメソッドは、東洋の「禅」と西洋の「心理学」や「脳科学」を融合させたものです。今、世界で「禅」が注目されています。

私の師匠であるアメリカ人のジョセフ・ペアレント博士は、ビジェイ・シン選手やクリスティ・カー選手を世界No.1に育てました。そのペアレント博士のメンタルトレーニングの軸が「禅」であり、選手たちの心を禅の哲学やマインドフルネス(坐禅)を通じて指導されています。

実際にお会いしてみると、ペアレント博士の禅への深い理解に衝撃を受けました。ペアレント博士からの教えは私の土台であり、今も私自身が禅の修行に励みながら、選手たちと新たな可能性にむけて挑戦を続けています。

ゴルフはメンタルが大事という方は多いと思います。しかしプロゴルファーでも、スタートでつまずく、逆にいいプレーをしていても上がり3ホールになると思うようなプレーが出来ない、ミスをひきずってしまう、ついムキになってしまうなど、「やっちまった」という経験を繰り返しているのではないでしょうか。あそこで耐えていればと悔やみながら帰りの車を運転されている方も多いと思います。

残念ながらどんなに悔やんでも、これではメンタルは成長しないのです。お伝えしたいのはこれが悪いわけでありません。どんなトッププロでも同じようなことで悩んでいます。それだけ、ゴルフは奥深いスポーツなのです。

では、ゴルフにおけるメンタルの成長とは何でしょうか?

ゴルフはあなたの隠れた性格も含めて、あなた自身が表現されるスポーツです。せっかちな人は早くプレーするでしょうし、あるゴルファーは無謀な挑戦に挑んでみたり、別のゴルファーは慎重すぎて怯えてしまったりとそれぞれの性格が出るのです。性格がうまくプレーで機能していればそのままでOKですし、一方でブレーキになっているとすれば、改善する必要があります。

メンタルに強い、弱いはない メンタルとは「心の技術」

「私はメンタルが弱い」「あの人はメンタルが強い」という表現をよく聞きますが、実はもともとメンタルが強い人、弱い人ということはありません。弱いと思っている人でも、うまくプレーできていることはあるでしょうし、強いと思っている人でも気づいていないところで何か問題を抱えているケースがあります。強い、弱いとカテゴライズすることそのものが、思い込みになっているのです。

それよりも、どういう場面が苦手なのか、あるいはどういう場面は好きなのか、もっと具体的に知ることです。例えば「勝負がかかった1メートルのパットだと手がスムースに動かない」とか「慎重になりすぎてパットがショートしてしまう」という具合です。こうした課題は、主に心が引き起こしています。心と体は密接につながっているからです。1メートルのパーパットが緊張するとすれば、それは絶対に入れなければならないという期待の裏返しです。期待が大きければ大きいほど、緊張や不安が高まるのです。

つまり、緊張だけを何とかしようとしても、緊張は消えません。優勝を決める1メートルのパーパット、最高に緊張する中でいかに自然に手が動く「平常心」を作っていくか。そうした一つ一つの積み重ねがメンタルの成長なのです。

このように、何か具体的に改善することを練習やラウンドでトライしてみるのです。これがメンタルトレーニングです。まさにトレーニングなので、スイングやフィジカルと同じように、何度も練習することで少しずつ「心の技術」を会得できるのです。一つ一つ自分の限界を突破していくことで、自分への信頼が高まっていきます。

ゴルフ道を究めていく

武道、茶道、華道など「一生かけて道を究めていく」という考え方が、日本には古くからあります。その根底には「禅」の哲学があります。一時的な結果で一喜一憂して終わるのではなく、仕事には仕事の道があるように、ゴルフにはゴルフという道があります。

今、不完全な自分が悪いのではなく、昨日よりも今日、今日よりも明日と1ミリでも成長できたときに、人は充実感を覚えるのです。心を磨きゴルフを磨く、それが禅×メンタルトレーニングの目指すゴルフ道です。

無心のスウィングへの道(ゴルフダイジェスト誌コラム連載最終回原稿より)

心をコントロールしようとしないのが本当のメンタルトレーニング

これまで3年半にわたり連載させていただきましたが、今回が最終回になります。禅とメンタルトレーニングの融合についてお伝えするのは、とてもエキサイティングな体験でした。最後のテーマは「無心のスウィング」です。

ある男子プロゴルファーは、メンタルトレーニングを重ねる中で、あるとき「スウィングがスウィングしている」という感覚になったそうです。

ある著名な画家は「筆、おのずから動く」と体験を語っています。これらの感覚はいわゆる「ゾーン」の状態であり、禅でいう「無心」です。「スウィングがスウィングする」という感覚はまさに無心のスウィングであり、自分が動かしているのではなく身体が勝手に動いていたという状態です。

アスリート達は、心をもっと上手くコントロールしたいという期待を持っています。メンタルトレーニングは「心を扱う技術」だと思われているアスリートがほとんどでしょう。

「自分の心は思うとおりにはならない。」

禅×メンタルトレーニングはここからスタートします。心を思うとおりにコントロールしようとして「こうなりたい」「ここが嫌だ」と直そうとすると、多くの場合、さらにこじれていきます。嫌な箇所を限定するのも「自我(エゴ)」の意識の働きであり、直したいという考えも「自我」だからです。

「自我」で「自我」にアプローチすると、さらに「自我」が強くなっていきます。ちなみに「自我」は良い悪いではありません。私たちが持っているものです。ただ、「我」とどう付き合うかはプレーに大きく影響してきます。

我を強くするのか?我を薄めていくのか?調子が悪いときほど、プレーへのこだわりが強くなっていきます。些細なミスが許せなくなります。これは自我の罠に嵌まっているのです。

禅ではこの世界はよく川に喩えられます。師匠の老師は『自我が強い状態というのは、川の流れから「自分」という存在が浮き出ている状態』と言われていました。要は自分が周りの世界と切り離されているのです。自分という輪郭がくっきりと浮き出ている感覚ともいえます。

いかに自分と周りの世界との調和を取り戻すか。禅では「無我」「無常」を説き、坐禅を通して「我を薄めていく」修行をしていきます。

曹洞宗の開祖道元禅師は「身心一如」を説かれました。身体と心が一つのものの両面であるということですが、注目して欲しいのは、「身心」であって「心身」ではないということです。あくまで身体が先にあって、心が立ち上がってくる。坐禅はまさに身から心を整えていく鍛錬といえます。

ある老師は「坐禅では、坐禅しようと思わないことです」と話されていました。坐禅しようとすると、つい構えてしまいます。また呼吸をコントロールしようとするのです。人の心はコントロールする働きを持っています。どれだけ坐禅を重ねても、いい呼吸を求めて坐っていてはさらに自我を強くしてしまうのです。坐禅でも心のあり方次第で、さらに執着を深めてしまいます。

ただ、呼吸を感じること。浅いときは浅いことに気づく。深いときは深いことに気づく。早いときは早いことに気づく。ゆっくりならゆっくりに気づく。これは「只管打坐」といわれる坐禅のあり方です。身体の働きに心はただ寄り添うことで、次第にコントロールしようとする心の働きは鎮まっていきます。

「身体ファースト」のプレーが、無心のスウィングへの第一歩

ティーグラウンドに立った時、ただ呼吸を感じてみる。早くても浅くてもOKです。風を身体で感じながらターゲット方向に目がむいていく。ただ構えてみる。すべて身体の動きに任せます。心の役割はただその働きを観察するだけです。常に身体が先で心の働きは後です。身体が主で、心は従ともいえます。

「身体ファースト」のプレーが、無心のスウィングへの第一歩です。やがて「自我」を離れ「無我」の状態に近づけたときに、「無心のスウィング」が現れてきます。もしあなたが「無心のスウィング」という言葉に心惹かれたとしたら、それは探究への道がはじまっているということ。私も、「無心のスウィング」の探求者の1人です。ゴルフ道には終わりがありません。これからもひとつひとつ紐解くことに挑戦していきます。

ジョセフ・ペアレント博士からのメッセージ

 『禅ゴルフ』とペアレント博士について

 『禅ゴルフ』は、アメリカをはじめイタリア、ドイツ、韓国、日本など7か国で出版されたこの世界的なベストセラーです。メンタルトレーニングについての本はこれまでにも出版されていますが、禅のアプローチとメンタルの強化を結びつけている点で新たな境地を切り開きました。

 著者のジョセフ・ペアレント博士(1950年生まれ)は、仏教哲学と心理学の研究をしてきたアメリカの心理学者であり、スポーツ心理学と禅の英知の組み合わせにより30年以上のトレーニング実績を誇っています。

世界を代表するゴルファー、ビジェイ・シン選手は、極度の不振に陥っていたとき博士に出会い、トレーニングを受けることで、その当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったタイガー・ウッズを退けて世界ゴルフランキング1位の座をつかみました。

博士はPGAとLPGA(クリスティー・カー選手 2010年)の双方で世界ランキング1位の座に上り詰めた選手を育てた、現時点で唯一のメンタルコーチです。

「禅ゴルフ」の著者 ジョセフ・ペアレント博士との対談

ゴルフにおけるメンタルの大切さについてどう考えていますか?

 ゴルフにおけるメンタルゲームの重要性について申し上げますと、ゴルフは90%がメンタルで、残りの10%もメンタルだと思います(笑)。マインド(心の状態)は常にスイングに影響していますし、あなたがやることはすべてマインドがコントロールしています。マインドは意識不明状態にならない限り、必ず何らかの形で作用しているのです。寝ている時に夢を見るようにいつもマインドは働いています。

マインドを味方につけるか、敵にまわすか、それは自分で選択できます。それなら、私はマインドを味方にしたいと思います。ゴルファーが悪いショットを打った時は、ほとんどの場合、スイングの問題というよりマインドの問題なのです。だからメンタルゲームはとても重要なのです。

なぜ禅とゴルフをつなげて考えているのですか?

 若い頃からゴルフが大好きだったのですが、二十代の頃に仏教に出会って、マインドフル・アウェアネス(mindful awareness)を実践するようになりました。座禅もしました。そしてまさに私自身がマインドフル・アウェアネスを実践しているとゴルフが上達したので、マインドフル・アウェアネスが禅の教えの本質だと思ったのです。

ゴルフをしている時に、ショットの質は心の状態を反映していることに気がつきました。プレイ中により意識を今に集中させるようにすると、マインドフル・アウェアネスも深まっていくことが分かりました。マインドフル・アウェアネスによってゴルフも上達することに気が付いたのです。

 マインドフル・アウェアネスとは・・・「今ここ」にいる自分に気づくこと。思考や感情や体の感覚、心の状態など今起きていることをありのまま認識すること。過去や未来に心をもっていかれるのではなく、人は今この瞬間にいることで人のパワーは最大となる。仏教の修行においては座禅や瞑想を行うことでマインドフル・アウェアネスを実践している。

マインドはゴルフにどんな影響を及ぼすのですか?

 マインドフル・アウェアネスを実践するには、フォーカスを保ちながらリラックスし、常に今この瞬間に帰ってくるように意識することです。できるだけ「今、ここ」にいるということです。ゴルフでは、とにかく今ここで打つ、打つ瞬間に自分がいるということを確認するということが大事なのです。マインドが「今ここ」にないと、マインドは過去や未来をさまよい、ショットの瞬間に全てが注ぎ込めなくなるのです。たとえば「ミスショットはしたくない」と先のことを考えると、のびのびスウィングできなくなりますね。躊躇気味になってしまう。もしくは、手首でコントロールしようとしてしまう。そして結果的に悪いショットになってしまいます。

ビジェイ・シン選手はどんな変化を遂げたのでしょうか?

PGA選手の中でも本書のファンは多いと聞きます。特にビジェイ・シン選手は、2002年にあなたの指導を受けてから大きく脱皮したと伝えられています。事実、トレーニングをうけた3年間で9勝をあげ、世界1位の座も手に入れていますが、シン選手はプレーヤ―として人間としてどんな変化を遂げたのでしょうか?

 シン選手は、もともとゴルファーとして優れた才能と努力を惜しまない素晴らしい人間的資質を持っていました。シン選手いわく「ラウンド中に起こるさまざまな感情に以前ほど影響されなくなり、ショットやモーションに対してマインドをコントロールできるようになった。また自分のゲームに対して悪い考えがよぎることが少なくなり、前向きに対応できるようになった。」

 彼はもともとメンタルが強かったですし、私が提案したことでも、いいと思ったものは何でも取り入れようとしていました。強い精神力で努力を惜しまなかったので、指導をしていて難しいと感じたことはありませんでした。3年にわたる指導の中で、あらゆる場面で自信とゆとりを持ってプレイできるようになった点が変化だと思います。

アメリカのメンタルトレーニングの現状について教えてください。

 今PGAでは、150人のトッププロゴルファーがおりますが、私は20人ぐらいのプロゴルファーに対してどこかの段階でメンタル・トレーニングをしたことがあります。今、アメリカの半数以上のプロゴルファーがどこかの段階でメンタル・ゴルフ・コーチを雇ったことがあると思います。

 しかし20年前には、みんなメンタル・コーチングに対してネガティブなイメージを持っていたと思います。心理学者が必要なのは、精神的に問題があるからだというイメージだったのです。その後、12年ほど前にタイガー・ウッズ選手が現れた時、皆が彼の成功はメンタルの強さからきていると認識しました。彼が抜きんでているのは、メンタルが強いからだと皆思ったのですね。そこで皆、自分にもメンタル・コーチが必要だと思うようになりました。何か問題があるからではなく、もっと強くなるために、もっと向上するためにゴルフ・コーチが必要だと考えるようになりました。

たとえばですが、病気を治してもらうために医者にかかる、という考え方が普通だったのが、健康に問題はないけれども体づくりのためにトレーナーを雇う、という考え方も通用するようになってきました。人々の考え方が変わってきたのです。

 アメリカのメンタルト・トレーンニング事情について申し上げますと、スポーツによっていろんなスポーツ心理学者がいます。彼らは、視覚化(visualization)、イメージング、ポジティブ・セルフトークを使ってトレーニングします。またビジネスの世界でも、マインドフル・アウェアネスに対する興味が高まってきています。

 私が他のトレーナーと違うのは、仏教やマインドフル・アウェアネスなどの東洋の教えだけではなく、欧米の心理学、その両方を取り入れているところです。私はこれらの二つを組み合わせてゴルフとビジネスに生かしています。それがユニークなところです。マインドフルネスを経験しているインストラクターもいますし、心理学を学んだインストラクターもいると思いますが、私のように両方に通じている人はあまりいません。仏教的アプローチでマインドを理解している人もあまりいないでしょう。

日本のゴルファーにむけてメッセージをお願いします。

 メンタルトレーニングはこれからもっと必要とされる世界だと思います。スポーツの世界では、道具や器材もよくなっているし、優秀なフィットネス・トレーナーのおかげで体もよくなってきているし、テクニックを教えることに長けているインストラクターも山ほどいます。技術的に優れたゴルファーやアスリートもたくさんいます。そのような状況で、勝者と敗者の差をつけるのが、メンタルゲームだからです。

 ビジネスの世界でも、ストレスは増えている一方だと思います。いつもパソコンや携帯のメールに追われ、頭の中はいっぱいです。だから、心を穏やかにするためにもマインドフル・アウェアネスが必要とされるのです。気が散ることがあまりにも多いので、集中するためにもマインドフル・アウェアネスは必要なのです。

 日本の方はconcentrate(集中)し過ぎる傾向があります。ボールを打とうしてボールを見過ぎたり、ピンを狙いすぎたり。そうではなくfocus(焦点)という感覚が大事です。ピンポイントを狙う時も、だいたいこの辺だという感覚で打ってください。多少ぶれてもいいと思ってください。パーフェクト主義にならないことです。パーフェクトにできない自分を責めないでください。パーフェクトな人はいませんから。

 うまくプレイできるようになれば、ゴルフは楽しくなる…そんな風にお考えかと思いますが、それは間違っています。その真逆です。ゴルフをもっとエンジョイできれば、もっとうまくなるのです。ぜひエンジョイすることからはじめてみてください。

禅メンタルトレーニングが必要なとき 不調に気づく5つのヒント

どういう状況でメンタルトレーニングが必要なのか?メンタルトレーニングというと、さらにいい結果を求めてパフォーマンスを向上するために受けるというイメージがあるかもわれません。

確かにさらに集中力を上げたい、どんなときでも安定したプレーをしたい、もっといいパフォーマンスを出したいという動機でトレーニングをはじめるアスリートも多いです。しかし、これらは「欲」です。欲からはじまったトレーニングは、求めるような結果がすぐに出ないと止めてしまいます。もっともっと上を目指したいというときには、目に見える成果が出やすい技術の練習やトレーニングを求める傾向が強いのです。

実は選手達がメンタルトレーニングを本当に必要とするときというのは、思うようなプレーが出来ないときなのです。一例をあげると、以下のような感じでしょうか。

プレーする前から不安で仕方がない

試合前から不安な気持ちでいっぱいになるのは、スランプに陥ったスポーツ選手にはよくある悩みです。あるプロゴルファーは、アドレスする前からたびたび嫌な気持ちが湧いてくるのです。ボールを打つのが怖く、失敗するイメージしか湧いてこない。そして実際にプレーしたらそうなってしまった。どんなにスウィングを修正しても、嫌なイメージは消えず、逆に不安が強くなっていく。こうなってくると、どうスコアをまとめるかで精一杯な守りのプレーになっていきます。

以前は出来ていたことが、出来なくなった

ある男子プロゴルファーは、さらに飛距離を伸ばすためにフォームの改造に取り組みました。一時的に距離は伸びたのですが、だんだん動きがバラバラになっていったのです。若いときは、イメージしたらその通りに身体が動いていましたが、気がつけば、肩の力みが抜けなくなっていました。元のフォームに戻そうとしましたが、何をやっても元には戻りませんでした。練習不足と考えてさらに追い込んだ結果、腰を壊してしまいました。

突然体が動かなくなる

なぜか試合中、突然体が動かなくなるというのはアスリート共通の悩みです。練習では何も問題がなく動くのに、試合中ここぞという場面になると、突然緊張が襲ってくるのです。ある若手の女子プロゴルファーは、あともう少しで勝利というとき、信じられないようなミスをして勝ちを逃してしまいました。このことがきっかけになって、あと一歩で勝てるという場面になると、ミスを連発するようになったのです。勝利が脳裏によぎると、ミスが怖くなって足が動かなくなるのです。ミスをしないようにという意識は、身体を動かなくします。

人が気になって頭が真っ白になる

人に見られていると、緊張するというアスリートは多いです。この緊張感を力に変えられているときは、充実したプレーが出来ています。しかし、調子が落ちてくると、人の目はプレッシャーになっていきます。あるベテランの女子プロゴルファーは、ファンの声援が重圧になっていました。自分の打順を待っていると、ファンの期待に応えなくてはいけない、格好悪いプレーをみせなくないという声が大きくなってくるのです。頭が真っ白になり、普段のプレーが出来なくなるのです。特に日本人は「恥」という意識が強い。恥をかきたくないという思いは、イップスに繋がっていきます。

イップスになった

アスリートはもっと上手くなるために、「ダメなところ」を必死で直そうとします。確かに上達のためには、「直す」ことは大事です。しかし、直すことばかりを意識していると、それは失敗を恐れるプレーになっていきます。正解を求めて正しいプレーをしようとすると、それは間違いのプレーをしたくないという心を強化します。正しいと間違いをジャッジする思考は身体の自由な動きを阻害します。その結果プレーする前から失敗することに対する恐れで心がいっぱいになり、身体の動きはぎこちなくなります。それがイップスの初期症状です。

あるプロゴルファーは、1.5メートル程度のパッティングを外すことが課題でした。ストロークを直すためにさまざまなコーチから指導を受けましたが、少しずつ手が動きづらくなっていきました。そして、いつしか1.5メートルの距離になると手が動かなくなっていたのです。選手の表情を借りると、「1.5メートル以内のパッティングになると手が凍り付く」のです。イップスになる理由は一つではありません。さまざまな理由が複雑に絡み合っています。イップスに陥る選手に共通しているのは、「自己否定」です。なので、いきなりイップスを直そうとすること自体がさらに自己否定を増幅し、症状を悪化させるので注意が必要です。

原点に戻るメンタルトレーニング

スランプや怪我をはじめ苦しい状況に陥る理由は、練習を怠けていたからではありません。むしろ、もっと上手くなろうと真面目に懸命に練習していたときほど不調は起こりやすいのです。

ただ難しいのは、自分の状態を正直に受け入れることです。もっと良い結果を出したいという欲でプレーしているときは、自分の不調を受け入れられないのです。下手な自分が許せないのです。

調子が悪いとき、よく選手は「今がドン底だ」と言います。しかし、こう言えているときは、まだ「底」ではありません。あなたが思っているドン底の底はまだ抜けます。本当のドン底というのは、力尽きて、もう何も打つ手がないときです。

自分のゴルフが分からなくなったとき、実はメンタルトレーニングは効果を発揮します。

なぜなら、あなたが原点に戻れるときだからです。打つ手がなくなったとき、もうあなたは自分をごまかす必要はありません。下手な自分を隠す必要もありません。嘘をつく必要もありません。恥も外聞もありません。自分の本当の課題に向き合える準備が整ったのです。

原点に戻るためには、禅メンタルトレーニングはとても役に立ちます。下手な自分からスタートすればいいのです。格好悪くていいのです。しかし、面白いことにそうした弱さを受け入れられたとき、あなたは自分の本当の輝きに出会うことが出来るのです。

困難があなたを強くしてくれることに気づくでしょう。メンタルトレーニングとは心の土台作りなのです。

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